「会社が来年から職務給に切り替えると言っているけど、一体何がどうなるの?」と思った時に読む話

今週のメルマガの前半部の紹介です。
つい先日、ソニーが「2015年度からを目途に、年功給部分を廃して、役割に応じて賃金を決める職務給を全面的に導入する」とリリースしました。その一週間後にはパナソニックも同様のリリースを出してこの動きに追随しています。日本を代表する二大メーカーの決断は、これから多くの日本企業に少なからぬ影響を与えるはずです。

一方で「年功給から職務給に変えると一体何がどうなるっていうの?」という疑問を持つ人も多いでしょう。単純に中高年の人件費カットが目的だ的な報道も見られますが、むしろそれは副次的なものであり、本当の狙い言及しているメディアは今のところ見当たりません。

個人から見ればどこがどう変わるのか、その中でかじ取りを誤らずに望むキャリアを手にするにはどうふるまうべきか。非常に重要な論点なので、今回は真正面から切り込んでみたいと思います。

簡単におさらい、職務給と職能給の違い

まずは、簡単に賃金制度のおさらいをしておきましょう。一般的な日本企業では、職能給という属人給の一種が採用されています。これは個人の能力で賃金を決めるという理屈になっていて、その能力はほとんどの場合、勤続年数で決まります。つまり、毎年少しずつ上がって行って、まず下がることのないアレですね。要するに年齢給とか年功賃金とか言われるものがコレにあたります。

メリットとしては、長く勤めれば務めるほど上がることが確実なわけですから、従業員の定着率を引き上げ、ノウハウを蓄積させることが容易になります。従業員からしても、スキルアップや同僚達との競争にあくせくしなくても、余裕をもってじっくり目の前の業務に取り組めるというメリットがあります。

一方で、こうした組織は状況の変化に対応出来ないというデメリットもあります。過去のノウハウのしみついた高給取りのベテランは、それを捨てるのが苦手であったり、時には変革の必要性を認めなかったりするからです。個人から見ても、若手や女性のように勤続年数の低い集団から見れば、相対的に低い賃金でコキ使われる割に合わない仕組みでもあります。

一方で、職務給というのは、本人が担当している職務内容に値札をつけるシステムです。50代だろうが20代だろうが、東大出てようが高卒だろうが関係なく、単純にやっている仕事で決める仕組みなのでわかりやすいですね。もちろん、毎年の査定によってかなりアップダウンする流動的な賃金制度です。

メリットとしては、勤続年数や性別によらず、多様な人材を必要に応じて採用、配置できる点、環境の変化にも対応しやすい点等が挙げられます。一方で、勤続年数は大幅に低下し、長期勤続に伴うメリットは消滅するはずです。

さて、現在のわが国で必要とされるシステムはどちらでしょうか。『成長』という観点から見てみましょう。安倍さんも成長戦略で明言しているように、これからの日本は積極的に女性を抜擢し、多様なグローバル人材を受け入れ、戦力としていかないといけません。「おまえ若造だから」とか「勤続年数短いから」とか、ましてや「女性だから」なんて理由でえり好みするようなシステムはまったくもって時代遅れと言わざるを得ません。

『人口』という観点からも同様の結論になりますね。高度成長期のように日本中が若くて生きのいい男であふれていた時代ならともかく、これからどんどん人口が減っていくことが確実な社会の中で「採用するのは22歳の男子だけ」なんておバカなことをやっている余裕はぜんぜんありません。

『経営』という観点からはあらためて言うまでもないでしょう。新興国にどんどんキャッチアップされていく中、日本企業に必要なものは過去の成功体験におんぶにだっこすることではなく、新たな成功体験を生み出すことです。

そう考えると、ソニーとパナソニック両社がなぜ今このタイミングで重要な決定をしたのかは明らかですね。パナソニックは社員の平均年齢が45歳に達しようかという高齢企業であり、ソニーは管理職比率が4割を超える夢も希望もない頭でっかち会社です。こんな会社がいつまでたっても新しい成功体験なんて生み出せるわけがありません。今から入社しようという人は、中高年の下支えをしにボランティア活動しにいくようなもんですね。

でも、それは従来の職能給を維持し続けた場合の話。『勤続年数』から『担当する仕事』に基準を変えればアラ不思議、両社とも、少なくとも組織構成は出来て数年の若い会社と同じになるわけです。古い会社だろうがベンチャーだろうが、同じ業態であれば、本来抱えている仕事の内容は同じはずであって「ポストのためのポスト」やら「いらないけど人が余っているから残してあるライン」やらをばっさり切り捨てれば、いずれは同じような機能的な組織に収れんしていくはずですから。要するに、職務給への切り替えとは、そのためのリセットボタンを押すようなものなんですね。

「賃金が下がったらどうするんだ!」という人は、頑張ってより良いポジションに就く努力をしてください。新人から50代まで同じ土俵で競争すること。それが組織にとって最大のメリットであり、恐らくは労組との交渉の中で、総人件費の水準は維持するはずです。そういう意味では「人件費カットが目的」というのは、個人的にはややミスリードな気もしています。

余談ですが、職務発明制度の見直し(特許権を会社帰属にする改革)も、実は方向性としては同じです。従業員帰属なんだから将来は会社がきちんと出世で報いてくれるはずだよ、と錯覚させるのが従来の仕組みであり、そんなものは実態としてはもうとっくになくなっているわけで、だから2000年代以降、あっちこっちで元技術者が会社を訴えまくったわけです。

それをお上が「これからは特許権は最初っから会社のものだから」と宣言すれば、技術者や研究者は会社に丸投げせず、入り口や毎年の処遇見直しにおいてきちんと適切な対価を求めるしかないわけです。恐らくは、専門性の高い理系の人間から先に流動化が進むと筆者はみています。

全体として、日本は緩やかではあるけれども、確実に脱年功序列・脱終身雇用の方向に向かって進んでいるということですね。どんなに厚労省や連合がイヤだと泣き叫んでも、この流れはもう誰にも止められないということです。あとは、その中で個人がいかに上手に舵を取り、組織のためではなく、個人のためのキャリアを勝ちとれるかが重要でしょう。







以降、
モデルケースで考える職務給のメリット
ついていけないタイプ、これから活躍が期待できるタイプ
電機は復活するか



※詳細はメルマガにて(ビジスパ夜間飛行BLOGOS







Q:「MBAのありがたみがよくわからないのですが…」
→A:「外国製のオシャレなリボンみたいなもんです」



Q:「理研の危機管理体制はどこが問題だったのでしょうか?」
→A:「そもそも、小保方氏は採用するべき人ではなかったと思います」







お盆特別ショートショート 「マンション」

その会社は、ちょっと変わったマンションを所有していた。そこに入居した従業員が立て続けに亡くなるという物件だ。その後、空き室のまま放置されていた部屋に、自ら入居を志願した若手社員を待っていたものとは。






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2014年連合山口主催「労使トップセミナー」出席のお知らせ

明日4日の山口市で行われる掲記セミナーに登壇予定なのでご報告。

普段、筆者はオープンエントリー以外の講師やセミナー告知はしないのだが、なにぶん山口での初仕事ということで告知しておこうと思う。

仕事で地元に呼ばれるというのは、実に気分がいいものだ。

先見労務管理「“残業チキンレース”をやめ時間あたり賃金の上昇を」寄稿のお知らせ

先見労務管理の特集「時間から成果に基づく人事制度へ―新たな成長戦略が閣議決定―」に寄稿したのでご報告。

論点だけ簡単にまとめておこう。


・「残業代を厳しく支払わせれば長時間残業を抑制できる」なんてことをいう人がいるが、現実には会社は一定の残業時間を事前に織り込んで基本給を抑制するだけなので、それによって実現するのは「いっぱい残業しないと生活できない」賃金でしかない。これが日本の長時間労働に拍車をかけている。

・時間から成果にリソースを移すことで長時間残業する必要はなくなるので、時間管理の廃止はむしろ長時間残業の抑制につながる。

・とはいえ、権限と業務範囲の明確化が不可欠であり、職能給から職務給への全面的な切り替えが必要となるので、全面的にすぐに移行できるというものでもない。それを経ずになし崩し的に始めた目標管理が機能不全を起こしたことは記憶に新しい。



週刊エコノミスト「企業の情報開示拡充でミスマッチ改善を」寄稿のお知らせ




週刊エコノミスト最新号「強い大学」特集に「企業の情報開示拡充でミスマッチ改善を」を寄稿しているのでご報告。

論点だけ簡単に紹介しておこう。

・2000年以降、大手企業において、20~30代社員の流動化が急速に進んでいる。これは終身雇用制度のメリットが薄れたために起きたもので若者の教育や精神論でどうこうなるものではない。

・昔から流通系の離職率は3年で4割前後あるもので、それは製造業と違い、勤続年数を重視していない結果に過ぎない。政府が規制で引き上げようとするのはナンセンスだ。

・製造業の多くですら、既に勤続年数に魅力は感じておらず、今後は自ら生き残るために終身雇用制度にメスを入れることになるだろう。

・早期離職自体は、人材が労働市場を通じてより効率的に移動しているわけだから別に悪い話ではない。とはいえ、最初から自身のキャリアデザインに沿った企業に入っておくにこしたことはない。そのためには「上辺だけ取り繕って学生をかき集める」ような昭和の新卒採用スタイルではなく、インターンで生の現場に放り込んで表も裏も見せ切るような採用へのシフトが必要だ。




弱者は市場がないと取引にすら参加できないという現実

昨夜の政策カフェは初めての出席だったが、なかなか興味深いイベントだった。政策カフェというのは、政策に興味のあるビジネスマンや官僚、大学関係者を中心とした意見交換の場で、ビジネスと政策という(本当はもっと人が活発に行き来すべきなのだが)パラレルな世界が接点を持つというのが設立の趣旨である。

さて、昨夜出席した官僚OBや学者の方の発言で興味深いものを備忘録を兼ねて紹介しておこう。
(承認を貰っていないので匿名で)


アベノミクスの第一、第二の矢は短期の効果しかなく、構造改革の推進である第三の矢が実現しないとこのまま尻すぼみになりかねない。

第三の矢の中でも、やはり労働市場の流動化はとても重要だ。先のサッカーW杯で労働市場改革の先達であるドイツとオランダが旋風を巻き起こしたのは象徴的。ドイツもオランダも、日本より年間400時間近く総労働時間が短く、生産性は5割ほど高い。日本は労働の量ではなく質に注力し、生産性を上げる方法をもっと模索すべき。

一応、安倍政権自体は正しい方向を向いており、とりあえず特区を中心とした部分的な規制緩和が議論されているが、国交省や厚労省といった問題省庁がなりふり構わずイチャモンをつけて潰しにかかっており、気の抜けない状況。

「市場原理の導入は弱者に厳しい」というのは幻想で、規制による統制経済は、弱者に優しいどころか弱者を排除することになる。



特に最後の言葉は個人的にも思うところはあって、終身雇用がまさにその典型だろう。
「企業は年金支給開始まで従業員を雇え」という統制経済を推進してきた結果、一流大卒の男子しか取引されず、そのラインからあぶれた弱者や女性が非正規雇用としてリスクを押し付けられている。

筆者も以前述べたように、終身雇用そのものが弱者の排除装置として機能しているわけだ。少子化や格差といった問題は、すべてこの構造に根っこがある。

で、たいてい大声で「市場原理では弱肉強食になってしまう!」とかなんとか騒いでるのって、現在の構造でいいところに潜り込んでる大企業とか公務員の労組といった連中で、そもそも君ら弱者じゃないだろう的な面々がほとんどだ。

この構図は、雇用以外のすべての領域でも見られるものだ。今の日本には、弱者を守れとか、日本の伝統を守れとか声高に叫ぶ連中が多い。でもその多くは、弱者でも愛国者でもなく、単に「既得権という名のプール」に首までどっぷり浸かっていて、プールから出るのがイヤな怠け者に過ぎない。

弱者や未来ある世代がついていっても、恐らく何一ついいことはないはずだ。















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著作
「10年後失業」に備えるためにいま読んでおきたい話


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若者を殺すのは誰か?


7割は課長にさえなれません


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たった1%の賃下げが99%を幸せにする


3年で辞めた若者はどこへ行ったのか―アウトサイダーの時代


若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来
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城繁幸
コンサルタント及び執筆。 仕事紹介と日々の雑感。 個別の連絡は以下まで。
castleoffortune@gmail.com
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