GとかLとか騒ぐ前に、今の日本の大学は何なのか

今週のメルマガの前半部の紹介です。文科省有識者会議で経営共創基盤CEOの冨山和彦氏が示した大学再編構想、いわゆる「G大学L大学プラン」(以下冨山メモ)がものすごく大きな反響を呼んでいます。ざっとリアクションを見た感じでは

「その通り!現状の高等教育なんてぜんぜん社会の役に立ってないじゃないか」(by ビジネスパーソン)
「いやいや、社会の地力を高めるには教育のすそ野は広い方がいい」(by大学人)

といった感じで評価も真っ二つといった感じです。

筆者自身はといえば、だいぶ以前から日本の金太郎飴式の高等教育は限界に来ていて、企業側もへきえきしているというのが持論なので、冨山メモの方向性には賛成ですね。この際ゼロベースで議論すべきだろうと思います。

とはいえ、この問題、深く掘り下げてみるといろいろな論点も見えてきます。そもそもキャリアという観点からすると、GとLって何なのか。そして、なぜこのタイミングでGとLなのか。社会人のキャリアを考えるうえでも有益な材料が得られるはずです。

長期雇用の副産物としてのF

「役に立ってないから(特に文系は)ほとんどぶっ潰してしまえ」という議論がいきなり出てきて喝采を浴びてしまう日本の大学とは、そもそも何なんでしょうか。

日本の大学が企業から見て役に立ってない理由は単純で、企業が長期雇用を前提としているためです。バンバン転職するのが普通の社会なら、ある程度まで人材育成は外部機関に委託するのがトクですね。でも、20年30年と働いてもらうことが前提なら、ポテンシャルのありそうな人材に、自社に特化した教育をOJTで叩き込むのが得策です。結果、ピチピチしてて高偏差値の人材を一括で確保できる新卒一括採用が生み出されたわけです。

(技術系、研究系を除いて)企業は大学の成績証明書なんてみない、3年以上年を食ってたらアウト、文系で院なんて行こうものなら即アウト。こういう環境で、はたして真面目に勉強しようという学生がいるでしょうか。真摯に研究テーマに取り組むでしょうか。普通の人であれば、受験まで一生懸命頑張って、あとはそつなく単位だけ取得して最短で大学とオサラバする人生を選択するでしょう。こうして日本の大学は長い間レジャーランドと化し、“大学入学証明書発行窓口”として機能し続けてきたわけです。

さて、以上は企業から見た大学像ですが、大学側はそうした状況に対して、どういうスタンスで臨んでいたでしょうか。ただ傍観しつつ、淡々と高等教育を演じていたというのが筆者の見方です。以下に引用する文章は70年代の大学の風景について述べたものです。

500人ほど収容可能な大教室で、出席学生は三分の一程度。それにもかかわらず最後部にわざわざ席を取る学生もいた。それも単独ではない。カップルである。
(中略)
もっと驚いたこともある。私立大学は学生数が多いので、学年末の試験ともなると、授業担当以外の教員も試験監督に駆り出される。わたしとあと二人の専任教員が、非常勤講師の「〇〇社会学」の試験監督をしていた。そこでかなり驚いた。「教科書持ち込み可」という条件はあったにしても、この非常勤講師が書いた学位論文をまとめた上下で数千円(いまの物価で一万円以上)の本を、数百人が持ち込んでいたからである。
(中略)
試験が終わってから、同じ試験監督をしていた年配の先生に「あれはちょっとひどすぎますよね。学生がかわいそうだ」と言ったところ、返ってきた答えがふるっていた。
「きみ、非常勤講師手当は安いのだよ、ああして毎年学期末に上下の何千円もする本が何百冊か売れるからこそ、〇〇先生もうちの大学に来てくれるんだ」
「なあに、ほとんどの学生は授業に出てこないのだから、四単位を数千円で買えるのなら安いもの」

(「革新幻想の戦後史」竹内洋 中央公論新社 より)

筆者の大学時代にもばりばりいましたね、教科書持ち込み可でバカ高い自分の専門書を買わせる教官殿は。ご丁寧に古本屋対策に数年ごとに版を変えるセンセイまで。で、我々学生がそういう教官殿に怒っていたかというとむしろ仏様のように有難がり、〇〇先生は持ち込み可で教科書さえ買えばアンパイだ的な情報をやり取りすることに精を出していたものです。

ついでにいうと、上記引用文には「専任教員が非正規教員を安く使い倒す」といういまどきの雇用問題まで先取りされていたりもして、日本の高等教育の本質が垣間見られるなかなか微笑ましい文章だと思いますね。

フォローしておくと、真面目にアカデミズムに向き合っている個人はいっぱいおられますし、理系はそれなりに真面目に勉学に励んでおられる人が多いように見えます。でも、それ以外の部分では、社会との断絶に目をつぶったまま、大学ポストという超安全地帯にでーんと居座ったまま、やる気のない学生相手に、高等教育しているフリを続けてきたというのが実際でしょう。そういう意味で、現状の日本の大学はF(フィクション)型だ、というのが筆者なりの結論です。



以降、
未来のG大学はここだ!
GL構想の本当の狙いとは
「東京大学物語」と「ビーバップハイスクール」



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Q:「ベーシックインカムについてどう思いますか?」

→A:「理念は面白いと思いますが、実現可能性は限りなくゼロに近いですね」



Q:「転職の際に希望年収はどれくらいを伝えるべきでしょうか?」

→A:「採る側からみて安心する年収水準というものがあります」







ショートショート「山口大学物語」






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専業主婦も終身雇用も割と最近の流行りもの

政治とか雇用とか全然興味なかったけどなりゆきで最近議員になっちゃいました的なセンセイ方へのレクチャーを書いておこう。超がつくほど基本的なことなので普通の人は読み飛ばしてもらってOKだ。


もともと日本は雇用の流動性の高い社会だった。それは明治に制定された民法で「解雇は2週間前の通告だけでいつでも可能」となっていることからも明らかだし、戦争中は国家総動員法で労働者の勝手な転職を禁止しなければならなかったほどだ(従業員移動防止令等)。

ついでに言うと、本来、日本は実力主義の色濃い社会でもあった。戦前の緒方竹虎は38歳で朝日新聞社の取締役になっているし、戦後も田中角栄が郵政大臣として初入閣したのは39歳だ。

ところが、高度成長期に新しい流れが起こる。日本が実質成長で毎年10%近くも成長し続けていた時代。裁判所は「(どうせ業績が悪くても一時的なものなのだから)企業はよほどのことが無い限りは解雇しちゃダメ」という判例をどかどか量産し始めた。こうして、後付けで終身雇用というシステムが生み出された。ついでに言うと、人為的に超長期雇用が生み出されたことへのバーターとして“定年制度”も生み出された。この年齢になったら辞めさせてもOKですよ、という救済措置なわけだ。

さて、人員整理をしてはいけないと言われた企業だが、繁忙期と閑散期がある以上はどこかで雇用調整しないといけない。というわけで、日本企業は残業時間を使って雇用調整をするようになった。忙しい時にはいっぱい残業させ、暇になったら残業時間を減らす方式だ。このためにいろいろな抜け穴が設けられ、雇用を守るため、労使は青天井で従業員に残業させることが可能となった。結果、過労死が日本名物となった。

もちろん他の先進国でも高額年俸を受け取るホワイトカラーの中には過労死するほどの勢いで働く猛者も多いけれど、年収500万円くらいの普通のサラリーマンがバタバタ死ぬ国は日本だけだ。

他にも、終身雇用はいろいろな副産物を生み出した。雇用を維持するためには、従業員は辞令一枚でいつでも全国転勤しないといけない。東京で余っている人を、空きの出た仙台に移すことで雇用を守れるようにするためだ。となると、共働きは難しい。夫婦のうちどちらか一方は家庭に入るか、稼ぎ頭の都合に合わせていつでも退職→移動の可能なパート程度で我慢する以外にない。こうして、夫は会社で滅私奉公、嫁は家庭で専業主婦というロールモデルが一般化することとなった。

要するに、終身雇用や過労死や専業主婦といった現象は日本本来の伝統でもなんでもなくて、割と最近の流行りものに過ぎないわけだ。そういうものを「本来日本は、男女の役割分担をきちんとした上で、女性が大切にされ、世界で一番女性が輝いていた国」とかいうのはあまりにも見ていて恥ずかしいので辞めませう。

ついでに言うと、
長期雇用を前提にじっくり育てるから若くてポテンシャルのある人材をまとめて採る方が合理的 →新卒一括採用

ポテンシャルと学校名しか見ないから勉強しない →大学レジャーランド

実際には旦那一人の稼ぎでは子供二人育てるのは困難 →完結出生率の低下

など、終身雇用はいろいろな副産物を生み出している。
どれ一つとっても、これから成熟した先進国になる上では取り除かねばならない課題と言っていい。だからこそ、労働市場改革は構造改革の本命なのだ。“次世代”とか名乗るなら最低限このくらいは勉強しろ。



「派遣法改正は反対だけど同一労働同一賃金には賛成」という民主党の狙いは何か

派遣社員の上限3年ルール撤廃を含む政府の派遣法改正案に反対している民主党が、なぜか維新の作成した“同一労働同一賃金法案”の共同提出に応じるそうだ。わかりやすくいうと「正社員こそ正しい働き方であり、派遣は規制すべきだ。あ、でも正社員と非正規の格差是正は必要だよね」ということになる。

同じ仕事をしている正社員と非正規雇用労働者がいて、給料が2倍も違っていた場合、当たり前だが正社員をある程度引き下げて同じ給与水準に落ち着かせるしかない。維新はそれを理解しているけれども、民主党はそれでいいんだっけ?w

さらに言えば、別に正社員だろうが非正規だろうが同一労働同一賃金が実現すれば、正規雇用だけに固執する理由も無くなるんですが。

というわけで、民主党の奇怪な行動パターンの理由を考察してみた。


1.現状のまま野放図に派遣労働を拡大することには反対だが、同一労働同一賃金という下地を作ることには賛成だという深謀遠慮なスタンス。ゆくゆくは連合と対決することも辞さない不退転の決意。


2.知能が低く、矛盾する政策だと気づかないまま脊髄反射で賛成している。たぶん「世界平和法案」とか「貧乏人救済法案」とか出してもパクッと食いつく。議員バッジをつけたニワトリ。

3.ぶっちゃけ政権取った後のことなんてどうでもよくて、響きの良さだけで態度を決めている。とりあえず派遣反対とか格差是正とか言っとけば愚民どもは喜ぶであろうというマキャベリ的思考。いわゆる政局至上主義。

ちなみに、民主党は政権担当時に派遣規制を強化した結果、ぜんぜん正社員なんて増えずにより不安定なパートが増えただけだったという失政をやらかしている。厚労省の労働政策審議会の委員の一人に「(規制強化で正社員を増やすというのは)机上の空論だった」とまで言われるほどだ。

いくらバカでも、数年前の苦い経験は覚えているはず。ということで、正解は3番であり、民主党はもう万年野党としてイチャモンつけに専念して生きていくことに決めたんじゃないかというのが筆者の見方だ。




キャリアデザインの一環としてのAV女優

今週のメルマガの前半部の紹介です。先日、なんと日経の記者がAVに出演していたとの記事を週刊文春がスッパ抜き、大きな話題となりました。それも、単体作品で10本(一説にはトータルで70本!)というのだから、それなりに有名な売れっ子女優と言っていいでしょう(文春報道時点で既に退職済み)。

もし、同じように、違法ではないけれども会社的にはあまり歓迎したくない経歴のある人間が社員になっていると判明した場合、会社はどういうアクションをとるのでしょうか。そして、幅広い経歴から垣間見える本人のキャリアデザインとは。

今回は企業と性の問題について思い切って切り込んでいきたいと思います。

AV!東大!日経!

最初、筆者は「日経記者が実は元AV女優だったことがバレて辞めさせられたらしい」という話を聞いて、よくある話と聞き流しました。実際、過去に風俗等の水商売勤務が発覚して処分対象となるケースはたまに耳にします。過去の犯罪歴なんかも同じですね。

というか、渡辺淳一先生の一連の作品を連載していたんだからそれくらい別にいいじゃんというのが正直な感想ですね。筆者も社内の知り合いに聞いたら「記者としてはそこらの男子よりよほど優秀で、コミュニケーション能力も高かった」そうなので、目くじら立てるほどのことでもないような気もします。きっと渡辺先生も草葉の陰で泣いておられるに違いありません。

ただ、実は慶応経由で東大の修士卒であるとかいった話を聞くうち、これはこれで優れたキャリアデザインの一環なのではないかと考えるようになりました。筆者がそう考えるようになった理由は以下の3点です。

1. そもそもAVは儲かる仕事ではない

ネットを通じたコンテンツの違法アップロードの被害をもっとも受けているのがAV業界だという点で、異論のある人は少ないでしょう。それくらい、アダルトコンテンツはネット上に無料でごろごろ転がっています。

結果、女優のギャラも90年代より桁一つ下がって、今では単体女優で数十万円、企画ものに複数人で出演する場合、一人数万円程度に過ぎないと言います。要するに「お金欲しさに体で稼ぐ」というAV女優像はノスタルジックな昭和のフィクションであり、そこにはまったく別の、そして多様な事情があるということです。

2.慶応SFC→東大大学院というエリート芸人養成コース

もう一つ、筆者がピンと来たのは、慶応SFCから東大大学院に学歴ロンダリングしていることです。終身雇用ベースの日本では、下手に文系大学院に行こうものなら社会不適格者のレッテルを貼られかねないリスクがあります。以前、文科省が博士課程を量産した時、何の売りがあるのかよくわからない20代後半の博士号取得者が日本中にあふれ、結果的にコンビニバイトやすきやのワンオペに落ち着いていったという経緯もあります。

まあそんな経緯を間近で見ているから、普通は文系で院なんて行きませんね。でも、東大の院だけは別です。今でも日本中から、熱意のある若者が集っていて凄い熱気です。何の熱意かって?「最終学歴を東大で上書きする」という熱意です。

学部はよその私大でも、何やってたかよくわからない文系でも、良くも悪くも東大の大学院はそれなりに評価されます。くわえて、将来は自分の名前を広く売る仕事に就こうと思っている人にとっては、正々堂々と「東大修士課程修了」と名乗れるわけですから、とても魅力的なわけです。というわけで、東大の院には、政治家とか作家の卵的な人が割といますね。

もちろん、ちゃんと真面目に勉強するためにやってきた人もいます。でも、そういう人はたいていそのままアカデミズムの世界に残るものです。民間一流企業に就職し、後述するように著作まで出しているという事実からは、恐らく最初からハクを付けることが目的だったのでしょう。実際、いくつかのメディアは本人のことを「東大院卒」と華々しく報じているわけで、彼女の破壊力は3割くらい増しになっているはずです。

3.「日経」という肩書への執着心の無さ

仮に本人の動機が安定や収入にあるのであれば、就職と同時に過去ときれいさっぱり縁を切り、メイクや髪型を一新して、栄えある日経新聞社の一員として新たな人生を歩みだしたはず。実際、お水で働いていた女子学生の99.9%はそういう風にシフトチェンジします。

でも、彼女は2013年に「AV女優の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか」というきわどいタイトルの本を出版しています。普通、完全に足を洗った過去に関係する話なんてわざわざ本に書くでしょうか?もし同僚に「あの人ってこの女優さんに似てない?」的な疑惑を抱く人がいたら、有力な物証を投げ与えるようなもんでしょう。

恐らく、本人はある段階から、いずれ著作などを通じ直接社会に情報発信するポジションに行こうと決意したはず。それがAV前か後かはわかりませんが、東大大学院や日経というキーワードは、その発信力を強めるための“飾り”でしょう。はっきりいって、恐るべきキャリアデザイン力だと思います。

前回のストーリー的な観点から言えば、本人の経歴には「慶応から社会学系の東大大学院に進学、フィールドワークも兼ねてAV出演、日経新聞記者となるも、そちらの執筆活動を優先するために独立」という見事なストーリーが出来ているのがわかりますね。



水際作戦に失敗した日経の事後処置を検証する
企業に意外に多いお水出身者
つぶしのきかないスキルを黄金の職歴に変えるテクニック



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Q:「外資ですがトップが一年くらいで次々交代してしまいます……」

→A:「労働市場が硬直しているのは一般従業員だけではありません」



Q:「他部門のサポートまで指示されててんてこまいです」

→A:「付加価値の低い仕事をいかに切り捨てるかも、とても重要なキャリアデザインです」







雇用ニュースの深層


有給消化率や女性登用率の義務付けで日本企業は電気羊の夢を見るか


当たり前ですが、有給消化率や女性幹部比率というものは社会体質の一つの指標に過ぎず、指標を法でこねくりまわしたところで体質がかわるわけではありません。ちょっと前の社外取締役ブームがいい例でしょう。



東大文系の評価急落の意味するもの

一つのロールモデルが終焉を迎える中、新たなモデルを提供できない大学は凋落せざるをえません。次世代のエリートたちはどこを目指すのでしょうか。そして、既に社会人となった人間が意識しておくべき点とは。






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「日経プラス10」出演のお知らせ

本日14日22時~のBSジャパン「日経プラス10」に出演予定なのでご報告。


テーマは「“脱・年功序列”は日本企業に根付くのか!?~総理が目指す「年功序列見直し」日本経済への影響は?」とのこと。










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「10年後失業」に備えるためにいま読んでおきたい話


それゆけ!連合ユニオンズ[上]


若者を殺すのは誰か?


7割は課長にさえなれません


世代間格差ってなんだ


たった1%の賃下げが99%を幸せにする


3年で辞めた若者はどこへ行ったのか―アウトサイダーの時代


若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来
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城繁幸
コンサルタント及び執筆。 仕事紹介と日々の雑感。 個別の連絡は以下まで。
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