個人請負は今後、主流なワークスタイルの一つになる

昨日のセミナーでも質問があったが、最近、業務の個人請負契約化が一部で進んでいる。

以前から金融業などでは、高度な専門性を持つ人間などを契約社員や嘱託といった非正規雇用で処遇
していた(正社員の賃金制度には収まりきらないため)。
IT系のベンチャーなどでは能力のある人ほどそういった個人請負方式で働いている傾向があって、
複数社の名刺を使っている人もいる。

佐々木俊尚氏橘玲氏も著書の中で、こういったプロジェクトごとの請負契約が今後は主流になることを
指摘している。僕も同感。否応なしにそういう働き方が主流になると思われる。

理由は2つ。
ITのおかげで労働時間量や勤務場所やノウハウといった縛りが薄れ、もっと流動的な働き方が可能となったから。
こうなると個人を丸抱えして職場に縛り付けるより、専門性をべたべた切り貼りした方が良いとこ取り出来て
効率的だ。もちろん、“出来る人”にとってもその方がメリットは大きい。
一芸に特化した個人というのは従来の日本型ホワイトカラーの中ではどちらかというとアウトサイダー
だったけれど、中期的には終身雇用のゼネラリストの方が規制業種などのレアケースになるのではないか。

もう一点は、グローバリゼーション下で賃金の引き下げ圧力はさらに強まるから。
派遣規制という追い風もあって、個人の請負化は一層進むはずだ。

もちろん人生丸投げの日本型雇用も惰性でしばらくは残るだろうけども、それに見合った実入りが貰える人は
どんどん減っていくだろうから、緩やかに人の移動は発生するはず。

たとえば、ビジネス環境が激動中の出版業界などは、格好のモデルケースになるだろう。
従来から、大手版元は高給取りで下請けのフリー編集者は貧乏と相場は決まっていたが、中には独力で
大手並みに稼ぐツワモノもいた。
そういう人は複数の版元の仕事を掛け持ちしつつ、単行本の請負もこなす。まさにスキルを切り売って
商売しているわけだ。

「大変ですねえ、フリーライターは」と上から目線で眺めている大手の若手編集者はまだまだ多いと思うが、
(出版不況の結果として)自分たちの年功序列的賃金制度が既に崩壊していることに気づけば、遅かれ早かれ
切り貼り市場に打って出てくるに違いない。
(もちろん完全実力の世界なので誰でも成功するわけではないが)

こういった業務の個人請負化はアメリカでは10年以上前から指摘されていたことだが、日本でも避けられない。
というわけで、給付付き税額控除等で社会保障機能を企業から切り離しつつ、思い切った規制緩和を実施する方が
合理的だと思われる。

最悪なのは、「けしからん!業務請負を規制しろ!」なんてどこかのバカが言いだして、
仕事自体が国外に流出してしまうこと。

後に残るのはずるずる沈下していく正社員組織と、仕事の無い失業者だけという夢の無い社会になってしまう。

「正社員で終身雇用が基本なんですぅ~」とかみずほちゃんは言うだろうけど、請負化どころか
整理解雇までやっちゃってる党が言っても説得力は皆無だ。

内定取消しは美しい日本の文化

日経ビジネスオンラインのこの連載が熱い。

内容については結構生々しい話でびっくり。
でもまあ、内定取り消しなんて実際そんなものだろう。だって、それはあってはならないことなのだから。
解雇にしてもそうだが、それは日本においては基本的に認められていないことだ。

日本は世界に冠たる終身雇用の国である。解雇はもちろん、賃下げも事実上不可能というとても美しい社会だ。
異論はあるかもしれないが、少なくともそういう建前で動いている以上はそうなのだ。

だから、闇に潜るしかない。窓の無い部屋に閉じ込めて軟禁したり、圧迫面談で自己都合の退職(あるいは辞退)に
誘導するというのは、これはもう美しい日本型雇用を守るための伝統行事みたいなものなので、
事故にあったようなものだと思って諦めよう。

ちなみに、本当のブラック企業なら建前なんて気にしないから、しちめんどくさいことなんてやらずに
「おまえクビだ」で終了。離職票には勝手に“自己都合”と書くだろう。
むしろ、若い子をつかまえて「おまえなんてクズだ!辞めちまえ!」というのは、
その会社の高いコンプライアンス精神のあらわれと思っていい。


そんなコンプライアンスはいやだ!というのであれば、構造的課題にメスを入れるしかなく、
「解雇&内定取り消しの(明文による)ルール化」が必要となる。
まあそれは民主党的にもタブーだろうから、対症療法だけれども
「内定取り消し証明の発行義務付け+公機関で一年ほどインターン受け入れ」あたりが落とし所か。

この手の話を聞く時、いつも思い出すのがアメリカの禁酒法時代だ。
「酒の販売を禁じればアル中も喧嘩も減るし、酔っ払いが減るから生産性も上がるだろう」
という規制脳の人々はアメリカにもいたようで、こういう飲んべえ殺しの法律ができたのだけど、
メチル入りの闇酒で死人は続出するわマフィアはのさばるわで
全然いいことがなかったのでその後廃止されている。


道端で泡吹いて死んだり、流れ弾で撃ち殺される社会よりは、販売相手や販売法に一定の規制を
設けることで自由化した方が合理的だというわけだ。

同じように、退職願いにサインするまで一日中倉庫でどやされたり、午前中に穴掘って午後は埋める
仕事やらされてメンタルトラブル続出みたいなカルチャーよりも、無理なく守れる範囲のルールを
作った方がみんなが暮らしやすい社会になると思うのは僕だけだろうか。

週刊SPA!

今週号の週刊SPA!

別々の時期にやったので記憶になかったけど、なぜかそれぞれ別特集の対談2つに参加しているな(笑)
というわけで取り合えず紹介。


特集1「日本のエリート教育をぶった切る」
アンテナ・プレスクール代表石井至氏、大学ジャーナリストの石渡嶺司氏と鼎談。
石渡氏は「就活のバカヤロー」の著者だ。
石井氏は東大医学部を出て外銀に就職した方で、20代で人事権を持つマネージャーに昇格した経歴がある。
90年代、外国人の上司は東大より日大の方が偉いと思っていたらしい(笑)
まあ東大なんて世界的に見ればそんなもんだろう。


特集2「国家改造宣言」
駒澤大学経済学部准教授の飯田泰之氏と対談。
氏とは同時期に連載を始めたという縁がある。お互い話していた痛感したのは、30代というポジションを
意識した論者が少ないということ。そういう意味でも、今後も本音で意見交換していければと思う。
目指す地点は変わらないのだから。

公務員制度改革が必要な理由

僕の新書はなぜか入試にやたらと引用されるのだけど、某法科大学院の入試論文にも登場したらしい。
送られてきた見本をみると、なかなか良い設問なので、ここはひとつ筆者として解答してみたい。

まず、拙著「3年で辞めた若者はどこへ行ったのか  アウトサイダーの時代」129p~の官僚編が引用される。
要するに、官僚の天下りはそれ自体がコストであるが、あらゆる改革が彼ら自身の“既得権”という
フィルターを通して実施されるため、骨抜きになりますよというお話。

それに対して、まず以下のような小論が提示される。
【要旨】
アフリカの途上国を見てもわかるように、国家の安定した発展のためには、強固で安定した公務員組織が
不可欠だ。そのため、国家公務員は一致団結し、一歯車として国家のために活動すべきである。
そう考えると、公務員がおのおのキャリアを磨き、転職市場で評価されるような専門性を身につけて
しまうと、公務員組織が不安定になってしまう。
しかも公務員には民間と違って幅の広い視野が必要だから、一芸に秀でた専門職より、行政全般に
精通したゼネラリストを育成すべきだ。
年功序列と終身雇用を維持してこそ、官僚は仕事に専念でき、国家は繁栄する。
天下りによって官僚のモチベーションが維持できるなら、むしろそれは国家にとって望ましいことだ。

【設問】
設問は、拙著を踏まえた上で上記ロジックに800字以内で反論しろというもの。
城繁幸なりに論述すれば、こうなる。

【解答例】
目標となる国家像が明確な場合、中央官僚による一極支配はそれなりに有効である。
つまり、戦後、新興の工業国としてアメリカという先進国にキャッチアップする過程では、
強固な官僚組織に依存するだけである程度の効果はあった。
ところが、ポスト工業化の段階ではこの方法は限界があり、民間の裁量に委ねるしかない。
官から民へ。民営化や規制緩和といったキーワードが主役になる。

ところが、年功序列制度の官僚機構は、中高年の消化のために大量の天下りポストを必要とするから
こういった改革に対する抵抗勢力となってしまう。
実質破たん状態にも関わらず「賦課方式だから年金は破綻してないですよ」と平気で嘘をつく厚労省の
天下り官僚などが代表だ。
「官僚の人事制度」という本丸に手をつけることなく天下りだけを禁止すれば、組織は崩壊して
政策や法案の作成能力は大幅に低下するだろう。
そもそも、彼らも全力で抵抗するだろうから、改革案の骨抜き→国民失望→政権交代といった
おなじみのプロセスが今後もずっと続くかもしれない。

逆に、序列ではなく成果に応じてキャッシュを支払う年俸制などに移行すれば、霞が関は抵抗勢力から
改革の推進者に生まれ変わるだろう。公務員制度改革こそ、すべての改革の一里塚である。
以上。

日本の路地を旅する

日本の路地を旅する
上原 善広
文藝春秋

このアイテムの詳細を見る



路地とは、いわゆる同和地区のことだ。“路地”と名付けたのは中上健次だが、響きを気にいった著者は
好んで使っているという。
強く関心があるテーマというわけではないのだけど、著者の前作「被差別の食卓」を一気に読んでしまったため
今回も迷わず手に取った。

高い理想を掲げていくわけでも熱い情熱をふりまいていくわけでもなく、氏は、ただ、路地から路地へ
旅をしていく。東北から佐渡、沖縄まで。
テーマも、最近の事件から吉田松陰までと、筆の向くままに進んでいく。
そこに描かれるのは、飾らぬ路地の今である。
路地の長老が語る話は確かに生々しいものが多いが、それはあくまで昔話だ。
今はむしろ、路地という良い意味でも悪い意味でも独立した世界が消え、一つの文化が滅びつつある
という現実がある。

著者自身の前半生も重ね合わされながら、滅びつつある文化へのノスタルジーを語るというのが
本書のスタンス。
平和で安定した路地への満足と、滅びゆくルーツを惜しむ気持ちが入り混じっていて、何とも言えない
リアリティが感じられる。たぶん、多くの地方出身者には、何らかの響くものがあると思う。
「イオンもTSUTAYAも出来て便利になったけど、なんか違うよなあ」と地元に違和感を感じている人
は僕だけではないはずだ。

あぶらかすのブレイクを見てもわかるように、もはや路地は路地でなくなったのだろう。
ただ、文化の発展というのはそういうもので、実は我々も、世界中からやってきたソウルフードに
囲まれて生きている。

今回も、食事が一つのキーワードで、あちこちで必ず酒と食いものの話題が入る。
どうも食べるのが大好きな人らしく、文章読んでるとこっちまで何かこってりしたものを食べたくなる。
とはいえ、あぶらかすもさいぼしもちょっと手に入らないので、とりあえずフライドチキンでも
買いに行ってくるかな。
スポンサーリンク


ENTRY ARCHIVE
著作
「10年後失業」に備えるためにいま読んでおきたい話


若者を殺すのは誰か?


7割は課長にさえなれません


世代間格差ってなんだ


たった1%の賃下げが99%を幸せにする


3年で辞めた若者はどこへ行ったのか―アウトサイダーの時代


若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来
MY PROFILE
城繁幸
コンサルタント及び執筆。 仕事紹介と日々の雑感。 個別の連絡は以下まで。
castleoffortune@gmail.com
RECENT COMMENT
SEARCH
QRコード
QRコード
お問い合わせ
お問い合わせはこちらまで