「大きいことは良いことだ」の象徴だったJAL

JALが破綻してしまった。JALというのは不思議な会社で、10年くらい前からダメだダメだと
いわれ続けて、それでもなぜか就職先としては常に人気があるという変な会社だった。

このランキングだと05年は首位ですから(文系)。
人事同士でランキングの話になると「JALの何がいいんだろうね?」という会話をよく
していた気がする。
MyNewsJapanでも、ほとんど何一つ良いことが書かれていない。ここまでな企業も珍しい。

僕自身も振り返って思うのだが、JALというのは、「大企業に行っとけば間違いない」的な
昭和的価値観の一つの象徴だったような気がする。
「ナショナル・フラッグ・キャリアなんだから、最後は生き残るんだよ」的な、
そんな気もするけど、良く考えたら何にも根拠の無い価値観だ。

たとえば90年代、今働いている会社とJALに内定を貰っていたとして、「行かないよJALなんて」
と自信を持って言えたという30代がどれくらいいるだろうか。
ちなみに、僕は言い切れません(笑)

もちろん、瀬戸際から奇跡の復活を遂げるリクルートみたいな企業もあるけど、そういう
ところは元々ビジネスモデル的には良いものを持っていたわけで、JALはきついのではないか。

それにしても、バブル全盛の90年当時のランキングを見ると、あまり現在と変わっていない
のが気になる。「それだけ社会が安定している」のなら言うことはない。
が、「衰退している」のだとすれば、由々しき問題だ。

官僚たちの夏2010

昨年、TBSで放映された「官僚たちの夏」というドラマがある。
面白くて毎週見ていたのだが、途中からいまひとつの出来だったように思う。
というのもほぼ毎週、
外圧→「それじゃ日本の産業はどうなるんだ!」と通産局長ブチ切れ→気合で乗り切る
のワンパターンで、まあ水戸黄門風の定型ドラマと考えると悪くは無いけど、ちょっとねぇ
という感じだったから。

特に凄かったのは、「自動車産業を守るために規制を残せ」と叫んでいた翌週に
「(繊維産業のために)自由貿易の灯りを消すな」と同じキャラが叫んでいたこと。
なんだかジャイアンみたいだ。

まあでも、テレビ局としても毎週見せ場をつくらないといかんのだろうと、長い目で見て
あげていた。

ところが。文春の今週号に、経産省前次官の北畑氏の景気予測が掲載されているのだが、
これがもう完全に「官僚たちの夏」丸出しである。
まず氏は「夏には景気が回復する」として、その根拠を述べていく。
金融システムにダメージが少ないこと、原油価格の低下と続いて、
なぜか「外資系資本の撤退」があげられている。
曰く、「企業の姿勢が株主万能主義から、従来の健全な日本型経営に戻る」からだそうだ。

株主万能主義なんてあったっけ?とか、じゃあ昔の株式持合いが健全なのかとかいう疑問は
置いておいて、問題はその後だ。
氏は今後の戦略としてモノ作り重視や環境技術育成をあげるのだが、最後に円高対策として
「積極的にM&Aをしかけて海外展開を図れ」と締めくくる。
「外資が来るのはイヤだけど、我々はどんどん行かせてもらいますから」というのは
少なくとも今の時代、経済大国となった日本には許されないだろう。

自由貿易体制を前提に成長戦略を練るという遺伝子が、彼だけではなく経産省自体に存在
しないとしたら、“夏まで”どころか、10年は景気回復しそうにない。

「7割は課長にさえなれません」目次紹介

7割は課長にさえなれません
城 繁幸
PHP研究所

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本日、新刊が発売になる。※
というわけで簡単に目次を紹介。

第一章 年齢で人の価値が決まってしまう国
第二章 優秀な若者が離れていく国
第三章 弱者が食い物にされる国
第四章 雇用問題の正しいとらえ方
第五章 日本をあきらめる前に
エピローグ

第一章:年功序列という世界で日本だけの奇妙なカルチャーが生み出す様々な弊害について
述べる。このカルチャーにおいては、20代前半に人生最大の勝負どころがやってくるため、
うかうか寄り道なんてしていられない。
といって、勉強しすぎても、レールから弾き出されることになる。
そして、卒業年度に求人が少なかった人たちは“一階部分”に押し込まれる。

第二章:日本の雇用法制では既得権の見直しが行なわれないため、人件費抑制は昇給抑制と
いう形で行なわれる。つまり賃金カーブは時間をかけてゆっくりと低下するわけだ。
これを予想した若手から流動化していくことになる。日本人の若手でさえそうなのだから、
まともな外国人はよりつかない。
高度人材から見て、日本の労働市場は世界44位という魅力しかない。

第三章:本来、安定した仕事よりもハイリスクな仕事の方が高時給であるべきだが、実際
にはそうなっていない。それは日本の労働市場が自由主義ではなく身分制度だからだ。
自由競争は社会に活力を生むが、規制は活力を削いでしまう。
日本型雇用を守り続けた結果、政府の債務残高以外は低迷し続けている日本を見れば、
それは明らかだろう。

第四章:従来の価値観は一度ゼロリセットする必要がある。
たとえば氷河期世代に対して「自己責任だ」という保守派も「資本階級が悪い」という共産党
も、どちらも日本型雇用主義者という点で変わらない。
テレビや新聞といった大手メディアも、この違いが理解できているとは言えない。
特にテレビ局に対しては、おススメの番組構成を提案してある。

第五章:本書を通じて主張していることの総括。
日本型雇用、つまり終身雇用というのは2階建てであり、一階部分の人間にとって維持する
メリットなど最初から無い。実は、我々は少数派ではなく多数派である。
問題は、このことに多くの人が気づいていないことだ。

本書は、2つの流れが同時並行で進む形となっている。
一つは、本ブログや過去2冊の新書と変わらないロジックの話。
そしてもう一つは、ある町のある一家を中心としたストーリーだ。
“エピローグ”というのは、多くの人が気付いたら・・・というifの話である。
それは確かに仮定の話に過ぎないが、理論的に不可能というわけではない。
少なくとも超国家主義や計画経済なんかよりは、ずっと身近なものである。

※でも店頭に並ぶのは大型店以外は来週かな。

新卒神話の終焉が意味するもの

12月時点の内定率が96年以降で過去最低を記録した。
73%といっても、この時期になると(進学や留年等で)戦線放棄した人が母数から抜けるため
就職できない学生の実数はもっと多いはず。

ただし、求人倍率的には“元祖氷河期”の方がよっぽど低い。
最低は00年卒業者に対する0.99。本年卒業予定者は1.62と、求人倍率だけを見れば氷河期とは
いえない数字だ。
つまり、求人は出しても内定は出さない企業が増えたということになる。

この事実は、新卒採用のトレンドが、過去10年の間に大きく変わったことを示している。
90年代半ばまで、「まっさらで従順でポテンシャルがありそうな子」であれば、どこかに
引っかかることは可能だった。現在はそういった資質に加えて、各社がそれぞれに必要な素養の
有無を判定しているわけだ。
企業によって全然違うので一概には言えないが、代表的なものはコミュニケーション能力、
表現力といったもので、「マニュアル型」の対極のイメージと言っていい。

このトレンドは今後さらに進化するはずなので、内定率は今後も大きくは回復せず、企業に
必要とされる人材とされない人材の二極化は続く。
「良い大学=大きな企業=幸せな人生」という昭和的価値観は、少なくとも入り口においては
既に崩壊したと言っていいだろう。

「バラマキは何も産まない」というコンセンサス

月刊Voice2月号の「大討論会 デフレ地獄脱出への処方箋」が面白いので簡単に紹介。
まあこの手の座談会というのは取り合わせの妙を楽しませようと妙なのが混じるのだけど
今回も菊池英博という「消費税をゼロにして国債ばんばん刷って公共事業しろ」という
トンデモ(これでも一応学者らしいが…)が参加している。

財政政策自体は日本のような先進国においては効果が無いし、世界的に見てもいまどき
そんな論文はないとする飯田泰之氏に対し、菊池氏はこう食い下がる。
「経済というのは結果です、私はビジネスマン出身だからそう断言できる。結果が
よければいいのです。したがって、歴史に学ぶことが一番大切です」

こいつは歴史は見えても90年代は記憶に無いらしい。ぼけてるのかな。
この老人に対する飯田氏の返答は実に模範的なので、若手なら記憶しておいて損はない。

「私がというよりも、専門家のなかではかなり共有されている理解かと
思います。財政の主な役割は、公共財の供給や再分配ツールに転換させる
必要がある。現在の日本にひきつけるならば、貧困問題への対応や規制改革
にともなう激変緩和に使うべきもので、景気浮揚に割り当ててはいけないと
思います」


多少の違いはあれど、こういう方向性についてのコンセンサスはとっくに成立している
わけだ。
「内国債だから破綻しない」なんて珍論を言うのは脳が凝り固まった老人か、
“商売繁盛”的なお札をバカに売りつけたいブルーオーシャン戦略家だけなので、
若者は無視しておいて構わない。
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「10年後失業」に備えるためにいま読んでおきたい話


若者を殺すのは誰か?


7割は課長にさえなれません


世代間格差ってなんだ


たった1%の賃下げが99%を幸せにする


3年で辞めた若者はどこへ行ったのか―アウトサイダーの時代


若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来
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城繁幸
コンサルタント及び執筆。 仕事紹介と日々の雑感。 個別の連絡は以下まで。
castleoffortune@gmail.com
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