小説文庫版のあとがきを書かせてもらったので紹介しておこう。

事前情報なしで読み始めた当初、筆者は「よくあるブラック企業モノだな」と考えていた。主人公の働く不動産会社では、営業成績の悪い営業マンは容赦なく暴言や暴力に晒される。もともと営業向きではない主人公も例外ではなく、ついには露骨な退職勧奨の対象となってしまう。

ところが中盤、営業マンとして主人公が一皮むけた後は、社内での扱いはガラリと変わる。本人も社会人として成長し、ああこれは島耕作式のサラリーマン出世魚ストーリーなのかと思わせる。

でも、物語はそう単純な話ではない。終盤にかけて、恐らく組織人なら誰でも一度は逡巡するであろうテーマが徐々に輪郭を浮かび上がらせる。

何のために働くのか。

本書には、様々な答えを見い出した様々な社会人が登場する。単に日々の暮らしの糧を得るため。将来独立するため。中には、ただ数字の達成感が欲しいからという人までいる。

もちろん、そんな疑問は無視したまま、幸運にも身を置けたレールの上をただ進んでいくだけの人々も多い。でも、少なくとも主人公はそういうタイプの人間ではない。彼を辞めさせようとする上司の言葉は強烈だが本質を突いている。

「お前は特別でも何でもない、何かを成し遂げることはないし、何者にもならない」

特別でも何でもないんだったらなおのこと、何のためにどういう風に働くかは自分で決めるしかない。特別じゃない人のもとに、答えはけして向こうからはやってこないから。

下手なお客様インターンに行って時間をつぶすより、本書一冊読んだ方がはるかに得るものは多いだろう。もちろん、ちょうど現在、上記のテーマに直面しているという若手ビジネスマンにもおススメだ。